17世紀イギリスの科学者ロバート・フック(Robert Hooke)は、物理学や天文学、建築など幅広い分野で活動した人物ですが、美術・科学史の観点から特に注目されるのが、顕微鏡などを使った観察を視覚化した精密な図版です。ノミ、シラミ、ハエ、植物の種、コルク、結晶などを大きく描いた図は、科学資料であると同時に独特の美しさを持っています。
フックの図をまとめて鑑賞したい場合、現代的な意味での単純な「スケッチ画集」を探すより、代表作『Micrographia(ミクログラフィア)』と、その図版を再録した資料を探すのが近道です。さらに、英国王立協会(Royal Society)が初版本をデジタル化しており、オンラインでも図版をまとめて確認できます。
ここでは、ロバート・フックの図を見たい人に適した書籍やデジタルアーカイブを、資料の性質の違いも含めて整理します。
ロバート・フックの代表的な図版集に相当する『Micrographia』
フックの図版をまとめて見たい場合、最初に押さえておきたいのが1665年に出版された『Micrographia: or Some Physiological Descriptions of Minute Bodies Made by Magnifying Glasses』です。日本語では一般に『ミクログラフィア』や『顕微鏡図譜』などと呼ばれています。
英国王立協会によると、『Micrographia』には38点の豪華な銅版図版が収録されています。顕微鏡を利用して岩石、植物、昆虫などを観察した結果が描かれており、科学史・顕微鏡史における重要な著作です。[参照]
したがって、「フックが描いたものをたくさん見られる本」という目的なら、『Micrographia』そのものが事実上の代表的な図版資料になります。文章中心の科学書ではありますが、大判の図版が大きな特徴になっているため、絵を目的に鑑賞しても十分に興味深い資料です。
有名なノミやコルクだけではない『Micrographia』の図版
『Micrographia』というと、巨大に描かれたノミの図や、細胞(cell)という言葉につながったコルクの観察が特に有名です。しかし実際の図版の題材はかなり幅広く、昆虫だけを集めた本ではありません。
英国王立協会のRobert Hookeコレクションでは、ノミ、シラミ、アリ、クモ、ブヨ、ハエなどに加えて、羽毛、魚の鱗、ケシやタイムなどの種子、苔、カビ、コルク、木炭、結晶、毛髪、絹などの図を確認できます。また、フックが使用した顕微鏡や光の屈折に関する図も含まれています。[参照]
例えば絹を扱ったPlate 3では、織物だけでなく一本一本の絹糸まで観察対象になっています。王立協会の資料では、この図は1665年の『Micrographia』に収録された銅版画であることが確認できます。[参照]
つまり、フックの図を見る面白さは「小さな生物を巨大化して描いた絵」だけではありません。身近な物質から生物、光学機器まで、17世紀の科学者が世界をどのように観察していたのかを図として追えるところにあります。
フック自身のスケッチと出版された銅版画は区別して考える
ここで注意したいのが、『Micrographia』の掲載図をすべて「フック本人が版に直接彫った絵」と考えるのは正確ではないことです。英国王立協会の資料では、『Micrographia』の図版について、フック自身が銅版を彫ったわけではなく、彼のイラストをもとに版画化されたことが説明されています。[参照]
フックには美術の素養もあり、若いころ画家ピーター・レリーのもとで学んだ経歴があります。王立協会は、フックを優れた科学的な作画能力を持った人物として紹介し、『Micrographia』の版画制作についてもフックが注意深く監督したと説明しています。[参照]
そのため「ロバート・フックのスケッチ集」を探している場合には、何を見たいのかを分けると資料を探しやすくなります。本人の手稿・素描そのものを探しているのか、それともフックの観察に基づいて出版された有名な科学図版をまとめて鑑賞したいのか、という違いです。後者なら『Micrographia』が最も代表的です。
書籍で所有するなら『Micrographia』の復刻版を探す
『Micrographia』は17世紀の本ですが、後世に復刻版が出版されています。その代表例の一つがDover Publicationsによる版です。Google Booksの書誌情報では、Doverから1961年に刊行されたunabridged edition(非省略版)が273ページであることが確認できます。[参照]
また、Courier Corporationから2003年に刊行されたDover Phoenix Editionもあり、こちらも273ページの復刻版として書誌情報が登録されています。ISBNは9780486495644です。[参照]
古書や洋書を探す際には、「Robert Hooke Micrographia」「Micrographia Dover」といった書名・著者名で検索すると見つけやすくなります。ただし版によって判型、印刷品質、図版の見え方などが異なる可能性があるため、図版鑑賞を主目的に購入する場合は、判型や掲載内容を確認してから選ぶのがおすすめです。
図版集により近い歴史的資料『Micrographia restaurata』もある
興味深いことに、『Micrographia』の図版を再利用してまとめた歴史的な本も存在します。1745年刊行の『Micrographia restaurata』です。Biodiversity Heritage Library(BHL)には、この資料がデジタル化されて公開されています。[参照]
正式タイトルには「The copper plates of Dr. Hooke’s wonderful discoveries by the microscope, reprinted and fully explained」とあり、フックの顕微鏡による発見を描いた銅版を再録し、解説した本であることが分かります。本文はHenry Bakerによって用意されたとBHLの書誌情報に記載されています。
「フックの図版を中心にまとめ直した歴史的資料」という意味では、非常に興味深い存在です。現代の美術出版社が制作した画集とは性格が違いますが、『Micrographia』の図を図版資料として楽しみたい人なら、『Micrographia restaurata』も確認する価値があります。
無料で図版をまとめて見るなら英国王立協会が便利
本を購入する前に図版をじっくり確認したい場合は、英国王立協会のデジタル資料が非常に有用です。王立協会は所蔵する『Micrographia』初版本をデジタル化して公開しており、完全なフルサイズ図版、索引、検索・ダウンロード可能な機械可読テキストを備えたデジタル版として紹介しています。[参照]
さらにRoyal Society Picture Libraryには、38点の図版を個別に研究・鑑賞できるコレクションが用意されています。昆虫だけを見たい、植物の種だけを見たい、顕微鏡の図を確認したい、といった場合には本を最初からめくるより便利です。[参照]
例えば石・海綿・海藻を描いたPlate 9についても、個別ページで作品情報や何を観察した図なのかを確認できます。[参照] 美術的な鑑賞だけでなく、描かれている対象まで知りたい場合には、こうした専門機関の解説付きアーカイブが役立ちます。
目的別に選ぶロバート・フックの図版資料
フックの図を探す方法はいくつかあるため、目的に応じて使い分けると効率的です。
| 目的 | 適した資料 |
|---|---|
| 代表的な図版を原著と一緒に見たい | 『Micrographia』 |
| 紙の本として所有したい | Doverなどの『Micrographia』復刻版 |
| 図版をオンラインで一覧したい | Royal Society Picture Library |
| 初版本全体をデジタルで読みたい | Royal Societyのデジタル版『Micrographia』 |
| 図版を再編集した歴史的資料を見たい | 1745年『Micrographia restaurata』 |
| 本人の直筆素描そのものを研究したい | 『Micrographia』の出版図版とは区別して手稿・アーカイブ資料を調査 |
単純に「あの巨大なノミのような絵をたくさん見たい」という場合なら、まずRoyal Society Picture Libraryを眺めてみると、自分が求めているものか判断しやすいでしょう。そのうえで紙で鑑賞したくなったら復刻版を探すという順序も合理的です。
一方、科学史研究としてフック本人の作画過程まで追いたい場合は、出版された銅版画とフック自身による原画・手稿を同一視しないことが重要です。資料の成立過程まで確認することで、『Micrographia』をより正確に理解できます。
まとめ|フックの図版を集中的に見るなら『Micrographia』が基本資料
ロバート・フックのスケッチや科学図版をまとめて見たい場合、中心となる資料は1665年刊行の『Micrographia(ミクログラフィア)』です。38点の銅版図版が収録され、ノミやシラミなどの昆虫、コルク、種子、結晶、繊維、顕微鏡、光学に関する図まで幅広く見ることができます。
紙で楽しむならDoverなどの復刻版、オンラインで図版を一覧したいなら英国王立協会のPicture Libraryが便利です。また、1745年の『Micrographia restaurata』という、フックの顕微鏡図版を再録・解説した興味深い歴史的資料もBiodiversity Heritage Libraryで確認できます。
現代的な「ロバート・フック画集」という名前だけに絞って探すより、『Micrographia』『Micrographia restaurata』『Royal Society Robert Hooke Picture Library』の3方向から探すと、求めている図版へ到達しやすくなります。特に図そのものを鑑賞したい場合は、まず王立協会のデジタルコレクションで実物の図版を確認してから、好みに合った復刻本を選ぶ方法がおすすめです。


コメント