音楽史を学んでみたいと思っても、書店には「西洋音楽史」「クラシック音楽史」「日本音楽史」などさまざまな本があり、最初の一冊を選ぶのは意外に難しいものです。特に試験対策ではなく教養として学ぶのであれば、作曲家名や年代の暗記を中心とした本より、「なぜその時代にその音楽が生まれたのか」が分かる本のほうが読み続けやすいでしょう。
また「古代から現代まで」という条件では注意点があります。一冊で数千年を扱う以上、個々の作曲家や作品についてはどうしても簡潔になります。そのため、最初に通史の入門書で全体像をつかみ、興味を持った時代を別の本で深掘りするという読み方が効率的です。
ここでは出版社や国立国会図書館の書誌情報も確認しながら、音楽史を教養として学びたい人に向く本と、それぞれの使い分けを紹介します。
最初の一冊なら『決定版 はじめての音楽史』が有力
古代から現代までを一冊で見渡したい場合、まず候補にしたいのが久保田慶一ほか著『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』(音楽之友社)です。2017年刊行の決定版はA5判230頁で、タイトルどおり古代ギリシアから日本の現代音楽までを扱っています。[参照]
この本の大きな特徴は、西洋音楽だけでなく日本音楽も一冊の中で扱っていることです。国立国会図書館の書誌情報でも、音楽史の入門書として西洋音楽史、日本音楽史、日本の現代音楽を扱う構成であることが確認できます。参考文献・視聴覚資料や音楽史年表も収録されています。[参照]
「バッハやモーツァルトについてだけ知りたい」のではなく、「そもそも西洋音楽はどのように成立し、日本の音楽はどのような歴史を歩んできたのか」という大きな地図を作りたい人には相性のよい一冊です。試験勉強ではなく教養目的であれば、最初から細部を暗記せず、一周目は歴史の流れをつかむつもりで読むとよいでしょう。
新しい入門書なら『音楽史を学ぶ 古代ギリシアから現代まで』も候補
比較的新しい書籍から選ぶなら、久保田慶一編著『音楽史を学ぶ 古代ギリシアから現代まで 増補改訂版』(教育芸術社)も候補になります。国立国会図書館の書誌情報では2024年10月刊行、214ページの書籍として登録されています。[参照]
タイトルのとおり古代ギリシアから現代までを射程に入れているため、「時代を飛び飛びに勉強するのではなく、最初から順番に読みたい」という場合に選びやすい本です。
音楽史の初心者には、いきなり作曲家別の評伝を何十冊も読むより、まず時代区分と大きな変化を把握する方法がおすすめです。「古代・中世・ルネサンス・バロック・古典派・ロマン派・近現代」といった大まかな位置関係が頭に入るだけでも、その後に音楽を聴いたときの理解度が変わってきます。
読み物として面白さを求めるなら岡田暁生『西洋音楽史』
西洋音楽を中心に、単なる年代順の知識ではなく「音楽が社会の中でどのように変化したのか」を考えたい人には、岡田暁生『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』(中公新書)が有力です。中央公論新社によると、本書は中世・ルネサンス・バロックという前史から、18世紀後半~20世紀前半のいわゆるクラシック音楽、さらに「クラシック後」までを大きな流れとして位置づけています。[参照]
この本の魅力は、音楽史を「作曲家Aが生まれ、次に作曲家Bが登場した」という人名の羅列として扱うのではなく、クラシック音楽という文化そのものがどのように形成されたのかという視点で眺められるところです。
例えば、現代ではバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンなどが同じ「クラシック」という棚に並べられています。しかし実際には、作曲家が置かれていた社会、音楽家の職業、聴衆、演奏される場所などは時代によって異なります。こうした背景まで考えると、音楽史は年表ではなく社会史・文化史として面白くなります。
本格的に深掘りするなら『グラウト/パリスカ 新 西洋音楽史』
入門書を読んでさらに詳しく知りたくなった場合には、ドナルド・J・グラウト、クロード・V・パリスカによる『新 西洋音楽史』があります。日本語版は音楽之友社から上・中・下巻で刊行されています。上巻は古代ギリシャ・ローマの音楽から扱っており、西洋音楽の伝統を詳しく追うことができます。[参照]
下巻ではロマン主義、19世紀の管弦楽曲、オペラ、20世紀ヨーロッパ、無調性や音列主義、20世紀アメリカなどへ進みます。つまり、西洋音楽史を古代から20世紀までかなり詳しく追いたい人向けの本です。[参照]
ただし、これは「気軽な最初の一冊」というより、入門書を読んで疑問が出てきたときに参照する本として考えると使いやすいでしょう。上・中・下巻に分かれ、内容も専門的です。教養目的なら最初から全ページを読破しようとせず、興味を持った時代を調べる辞書的な使い方もできます。
「古代から現代まで」を学ぶときに知っておきたい範囲の違い
音楽史の本を選ぶ際には、「音楽史」と「西洋音楽史」は同じではないことにも注意が必要です。西洋音楽史の本では、古代ギリシア、中世の教会音楽、ルネサンス、バロック、古典派、ロマン派、近現代音楽という流れが中心になります。
一方、世界の音楽全体を考えれば、日本、中国、インド、中東、アフリカなどにもそれぞれ長い音楽文化があります。さらに20世紀以降にはジャズ、ロック、ポピュラー音楽、電子音楽なども重要になります。一冊ですべてを同じ密度で扱うことは現実的ではありません。
そのため購入前には目次を確認し、「古代から現代まで」という言葉が西洋芸術音楽の通史を意味するのか、日本音楽も含むのか、ポピュラー音楽まで扱うのかを確認すると失敗しにくくなります。
教養目的なら「本を読む+実際に聴く」が最も分かりやすい
音楽史は文章だけで理解しようとすると、作曲家名、作品名、様式名が次々と登場して混乱しやすくなります。そこでおすすめなのが、本を読みながら該当する時代の音楽を実際に聴く方法です。
例えば中世について読んだらグレゴリオ聖歌、バロックまで進んだらバッハやヘンデル、古典派ならハイドンやモーツァルト、ベートーヴェン、ロマン派ならシューベルトやショパン、近代ならドビュッシーなど、本文に登場した作品を少しずつ聴いてみます。
すると「バロックから古典派へ変化した」という文章上の知識が、実際の響きの違いとして感じられるようになります。すべての作品を最初から最後まで聴く必要はありません。最初は代表曲を数分聴くだけでも、文章だけの場合より時代の特徴を記憶しやすくなります。
おすすめの読み進め方|まず一冊、その後に専門書へ
教養として音楽史を学ぶ場合、最初から大量の本をそろえる必要はありません。まず『決定版 はじめての音楽史』のような通史を一冊読み、「自分はどの時代が面白いと思ったのか」を見つける方法があります。
例えばバロックに興味を持ったらバッハや当時の音楽社会についての本へ進み、19世紀が面白ければロマン派やオペラの専門書へ進みます。20世紀に興味を持ったなら、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、ジャズや録音技術などへ枝を伸ばせます。
音楽史を一本の「幹」と考え、興味のある時代や作曲家を「枝」として深掘りすると、知識がばらばらになりにくくなります。試験ではないからこそ、最初から暗記するのではなく「面白いと思ったところを調べる」という読み方ができます。
まとめ|教養としての音楽史なら最初は全体像が見える本を選ぶ
古代から現代までの音楽史を分かりやすく学びたい場合、最初の候補として特に選びやすいのは『決定版 はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』です。西洋音楽だけでなく日本音楽まで視野に入れながら、一冊で大きな流れを確認できます。
西洋音楽史を読み物として考えたいなら岡田暁生『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』、さらに本格的に調べたくなったら『グラウト/パリスカ 新 西洋音楽史』へ進むという選択肢があります。比較的新しい通史として『音楽史を学ぶ 古代ギリシアから現代まで 増補改訂版』を検討する方法もあります。
教養目的であれば、年代や作品名をすべて暗記する必要はありません。「古代から現代まで何が変わってきたのか」という大きな流れをつかみ、実際の音楽を聴き、気になった時代だけ詳しく調べる。この順番で進めると、音楽史が単なる年表ではなく、人間の社会や思想、技術とともに変化してきた文化の歴史として見えてくるでしょう。


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