『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は面白い?内容・評価・おすすめできる人をネタバレ少なめで解説

読書

三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、2024年4月に集英社新書から刊行され、大きな話題になった一冊です。タイトルだけを見ると「忙しい社会人が読書時間を作るためのノウハウ本」のように見えますが、実際の内容はかなり異なります。

本書の中心にあるのは、なぜ現代では仕事と読書、さらに仕事と趣味を両立することが難しくなったのかという問いです。明治以降の日本における労働と読書の歴史をたどりながら、現代人の生活がどのように現在の形へ至ったのかを考察しています。

読みやすい新書でありながら、読書論・労働論・社会史が組み合わされた本なので、「読む優先順位を上げる価値があるか」という観点では、仕事や趣味との付き合い方に関心がある人ほど優先度の高い一冊です。一方、すぐ使える読書術だけを求めている人には、少し期待と違う可能性があります。

  1. 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』とはどんな本?
  2. かなり評価された新書であることは間違いない
  3. この本の面白さは「読書できない原因」を個人の根性不足にしないところ
  4. タイトルから想像するより「日本の読書史」の比重が大きい
  5. 「ノイズ」という考え方が本書の重要なキーワード
  6. 仕事では「必要な情報」、読書では「不要かもしれない情報」に出会う
  7. 読書論というより、実は「仕事との距離の取り方」を考える本
  8. 最終章の「全身全霊をやめませんか」が本書の結論に近い
  9. 「読書時間を作る方法」を期待すると少し物足りない可能性がある
  10. 逆に歴史や社会論が好きなら予想以上に面白い
  11. 文章は比較的読みやすい
  12. 皮肉にも「忙しくて本を読めない人」に刺さりやすい
  13. スマホを単純な悪者にしていない点も読みやすい
  14. 評価が分かれやすいポイントは「原因の一般化」
  15. 「半身で働く」という考え方に納得できるかもポイント
  16. こんな人なら読む優先順位は高め
  17. 小説を読みたい気分なら後回しでもよい
  18. 積読が増えている人には特に相性がいい
  19. 本好きだけに向けた本ではない
  20. 新書大賞受賞だから読む、だけでは少しもったいない
  21. オーディオブック版もある
  22. 読む前に知っておくと期待外れになりにくいポイント
  23. 読む優先順位を決めるなら「今の自分に刺さるか」で考える
  24. まとめ:評判だけでなく「今読む意味」があるタイプの本

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』とはどんな本?

著者は文芸評論家の三宅香帆さんです。集英社によると、本書は2024年4月17日に発売され、新書判288ページで刊行されました。[参照:集英社]

テーマは「仕事と読書」です。ただし「毎日30分読書しましょう」といった自己管理術を紹介する本ではありません。明治時代から現代まで、日本人がどのように働き、どのような本を読み、仕事と趣味をどう位置付けてきたのかを時代ごとに追っていきます。

そこから、現代人が「仕事から帰ると本を読むほどの余力が残っていない」「休日にはスマートフォンを眺めて終わってしまう」という状態へなぜ陥りやすいのかを考えていく構成です。

かなり評価された新書であることは間違いない

本書は単にSNSで話題になっただけではなく、出版業界でも高く評価されています。中央公論新社主催の「新書大賞2025」では、2023年12月から2024年11月までに刊行された1100点以上の新書から大賞に選ばれました。[参照:新書大賞2025]

さらに「第2回書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」を受賞し、「紀伊國屋じんぶん大賞2025」3位、「キノベス!2025」5位にも選ばれています。集英社によると、2024年の年間ベストセラーでも新書ノンフィクション部門1位となりました。[参照:集英社新書]

もちろん賞を取った本がすべての読者に合うわけではありません。しかし、「読む優先順位を上げるだけの評価を受けている本か」という意味では、十分に候補へ入る実績があります。

この本の面白さは「読書できない原因」を個人の根性不足にしないところ

本書の大きな特徴は、本を読めなくなった理由を「集中力がない」「スマホ依存だから」「本人の意志が弱い」といった個人の問題だけで説明しないことです。

むしろ、仕事へ多くの時間とエネルギーを投入することが当たり前になった社会では、それ以外の活動へ精神的な余力を残しにくくなるのではないか、という方向から考えます。

例えば仕事で一日中メール、資料、チャット、数字など大量の情報を処理した後、帰宅して200ページの小説へ集中するのは簡単ではありません。本書はその状態を「自分が怠けているから」と片付けず、働き方そのものとの関係から考えていきます。

タイトルから想像するより「日本の読書史」の比重が大きい

この本を読む前に知っておきたいのが、かなりのページを日本の労働史・読書史へ割いていることです。

明治時代の自己啓発的な読書、大正・昭和期の教養、戦後のサラリーマンと読書、自己啓発書の流行、インターネット時代の情報収集などを追いながら、「人は何のために本を読んできたのか」を考察します。

したがって「なぜ疲れると本を読めなくなるのか」を脳科学的に説明する本ではありません。また、時間管理や速読法を中心にした実用書でもありません。社会と読書の関係を歴史から考える新書だと思って読むと期待とのズレが少なくなります。

「ノイズ」という考え方が本書の重要なキーワード

本書後半で重要になる考え方の一つが「ノイズ」です。現代では、自分に必要な情報だけを効率的に取り入れることが重視されやすくなっています。

仕事でも「結論から話す」「要点だけ読む」「タイパを上げる」といった効率化が求められます。SNSやニュースアプリも、自分が興味を持つ情報を次々に表示してくれます。

しかし読書では、自分が探していなかった知識や、すぐには役立たない話、予想外の価値観へ出会うことがあります。本書では、そのような一見不要に思える情報を受け入れる余白が読書には必要ではないか、と考えていきます。

仕事では「必要な情報」、読書では「不要かもしれない情報」に出会う

この対比は、本書を面白いと感じるかどうかの一つの分かれ目になるでしょう。

例えば仕事でマーケティングについて調べる場合、「売上を上げる方法」という目的に必要な情報だけを探します。検索結果やビジネス書から答えを効率よく回収すれば目的は達成できます。

一方、小説を読んでいると、自分の仕事とは一切関係のない時代、土地、人物の考え方へ何十ページも付き合うことになります。しかし、その「直接役に立たない部分」こそ読書ならではの価値ではないか、という視点が本書にはあります。

読書論というより、実は「仕事との距離の取り方」を考える本

読み進めていくと、本書の本当のテーマは「本をどう読むか」だけではないことが分かってきます。

仕事へ全身全霊を投入することを当然とする社会では、読書だけでなく映画、音楽、ゲーム、旅行、家族との時間なども後回しになりやすくなります。

つまり「働いていると本が読めない」という問題は、「働いていると仕事以外の人生を十分に楽しめない」というより大きな問題の一例として扱われています。

最終章の「全身全霊をやめませんか」が本書の結論に近い

集英社が公開している目次を見ると、最終章のタイトルは「『全身全霊』をやめませんか」となっています。[参照:集英社新書]

ここに本書の問題意識がよく表れています。仕事へ100%の力を注いだ後、残ったわずかな時間で読書や趣味を楽しもうとしても難しい。ならば仕事へ注ぐ力そのものを少し減らしてもよいのではないか、という発想です。

この考え方に強く共感する人もいれば、「現実にはそんな簡単に仕事量を減らせない」と感じる人もいるでしょう。この点は本書への評価が分かれやすいところでもあります。

「読書時間を作る方法」を期待すると少し物足りない可能性がある

タイトルから「忙しい社会人向けの読書術」を期待すると、歴史の話が長いと感じるかもしれません。

例えば「通勤中に電子書籍を読む」「毎朝15分読む」「スマホを別室へ置く」といった具体的テクニックを大量に紹介する本ではありません。

終盤やあとがきには働きながら読むことについての提案もありますが、中心はあくまで「なぜこうなったのか」を社会的・歴史的に考えることです。

逆に歴史や社会論が好きなら予想以上に面白い

読書文化や日本社会の変化に興味がある人にとっては、タイトルから想像する以上に読み応えがあります。

「昔の会社員はどのような本を読んでいたのか」「教養という言葉はどのように変わってきたのか」「自己啓発書がなぜ人気になったのか」など、読書を通して日本社会を見る構成になっています。

個々の本の紹介も登場するため、読書好きなら「あの時代にはそんな本が読まれていたのか」と、本に関する本としても楽しめます。

文章は比較的読みやすい

テーマだけを見ると労働史や社会史の専門書のようですが、文章そのものは新書としてかなり読みやすい部類です。

難しい学術用語を大量に並べるより、現代人が経験しやすい「仕事から帰ると疲れてスマホを見てしまう」といった感覚から話を始め、それを過去の歴史へつなげていきます。

288ページあるため極端に短い本ではありませんが、章が時代ごとに進むので、自分のペースで区切りながら読みやすい構成です。

皮肉にも「忙しくて本を読めない人」に刺さりやすい

この本のおもしろいところは、テーマそのものが読者の生活と直結しやすいことです。

昔は小説を何冊も読んでいたのに、就職してから読めなくなった。積読は増えるのにYouTubeやSNSは何時間も見てしまう。休日になれば読書しようと思っていたのに、気付けば夜になっている。

そうした経験がある人なら、単なる社会史ではなく「自分の生活について書かれている」という感覚で読みやすくなります。

スマホを単純な悪者にしていない点も読みやすい

読書について語る本では、「最近の人が本を読まないのはスマートフォンのせい」と結論付けるものもあります。

本書はそれだけで説明せず、「なぜ疲れていると、本よりスマホのように簡単に消費できる情報を選ぶのか」という背景へ目を向けます。

つまりスマホそのものを取り上げれば問題が解決するというより、スマホへ逃げ込みたくなるほど仕事で余力がなくなっている状態を問題として見ています。

評価が分かれやすいポイントは「原因の一般化」

本書の主張は非常に分かりやすい一方、「すべての人が本を読めなくなる理由を労働だけで説明できるわけではない」と感じる読者もいるでしょう。

実際には、本を読まなくなる理由には年齢、生活環境、育児、介護、スマートフォン、趣味の変化、視力、集中力などさまざまな要因があります。

そのため本書を「科学的に唯一の原因を証明する本」と読むより、仕事と読書をめぐる社会について一つの強い仮説を提示する本として読むほうが納得しやすいでしょう。

「半身で働く」という考え方に納得できるかもポイント

著者は本書やその後の対談などで、仕事へ人生のすべてを投入しない働き方について語っています。

集英社新書プラスの対談でも、仕事に全身全霊を注ぐ社会ではなく、仕事以外のものを受け入れる余白を残す考え方が語られています。[参照:集英社新書プラス]

この部分は単なる読書論から人生論へ話が広がるため、「仕事との付き合い方を考えたい」という人には特に響きやすい内容です。

こんな人なら読む優先順位は高め

タイプ おすすめ度 理由
昔は本を読んでいたのに社会人になって読めなくなった 非常に高い テーマがそのまま生活と重なる
仕事と趣味の両立に悩んでいる 高い 読書を通して働き方を考えられる
読書史・社会史が好き 高い 明治から現代までの変化が中心
自己啓発書がなぜ流行るのか気になる 高い 読書と自己啓発の関係も扱う
すぐ使える読書テクニックだけ知りたい やや低い ハウツー本ではない
労働問題や社会論に興味がない 普通 歴史パートが長く感じる可能性がある

積読が何冊もあって優先順位を決めたい場合、自分が上段のタイプに近いほど、この本を先に読む価値があります。

小説を読みたい気分なら後回しでもよい

本の優先順位は評価の高さだけで決める必要はありません。今読みたいジャンルとの相性も重要です。

例えば現在「物語へ没頭したい」という気分なら、話題の新書だからという理由だけで本書を先にする必要はありません。本書はストーリーを楽しむというより、考えながら読むタイプの本です。

反対に「最近なぜ本を読めないんだろう」「仕事ばかりになっている気がする」と感じている時期なら、そのタイミングで読むことで内容がかなり自分事になります。

積読が増えている人には特に相性がいい

本を買うこと自体は好きなのに、読む時間がなく積読だけが増えている人には、本書のテーマがそのまま刺さります。

積読を見るたびに「自分は意志が弱い」と感じてしまう人もいますが、本書を読むと、読書するためには単純な時間だけではなく精神的な余白が必要だという見方ができます。

結果として、この本を読んだから急に年間100冊読めるようになるわけではありませんが、自分の読書生活をどう作り直すか考えるきっかけにはなります。

本好きだけに向けた本ではない

タイトルには「本」が入っていますが、実際には映画や音楽、ゲーム、創作、スポーツなど仕事以外の趣味にも応用できるテーマです。

仕事が終わると好きだったゲームすら起動する気力がない、休日に映画を見ようと思っても短い動画ばかり眺めてしまう、といった経験も、本書で扱われる問題とかなり近いものです。

そのため読書量そのものには困っていなくても、「仕事が人生を占領しすぎている」と感じる人なら読む価値があります。

新書大賞受賞だから読む、だけでは少しもったいない

新書大賞2025を受賞したことで本書を知った人も多いでしょう。実績という意味では、近年の新書の中でもかなり注目された一冊です。[参照:中央公論.jp]

ただ、賞を取ったから「誰にとっても名著」というわけではありません。この本の価値は、自分自身の仕事や趣味との関係を振り返れるかどうかで大きく変わります。

「最近本を読めていない」という実感がまったくない人より、まさに現在その問題を感じている人が読むほうが、本書から得られるものは多いでしょう。

オーディオブック版もある

紙の本を読む時間を確保しづらい場合、本書にはオーディオブック版も用意されています。集英社によると2024年6月13日に配信が始まり、再生時間は約7時間26分です。[参照:集英社オーディオブック]

通勤中や家事中に聞けるため、「働いていると本が読めなくなる」という本を音声で聞くという少し面白い読み方もできます。

歴史を順番に追う内容なので、ながら聴きでも全体像をつかみやすい一方、気になる部分だけ紙や電子書籍で読み返す方法も相性がよいでしょう。

読む前に知っておくと期待外れになりにくいポイント

期待 実際の内容
読書時間を作るハウツー 中心テーマではない
スマホ依存対策 スマホだけを原因にはしない
脳科学的な集中力の解説 ほぼ中心ではない
日本の読書史 かなり多い
労働社会への批評 重要なテーマ
人生と仕事のバランス 最終的な大きなテーマ

この特徴を知ってから読むだけでも、「思っていた本と違った」という印象はかなり減るでしょう。

読む優先順位を決めるなら「今の自分に刺さるか」で考える

積読の中からどれを先に読むか決める場合、本の客観的評価だけではなく、「今の自分が抱えている問題と近いか」で判断すると選びやすくなります。

仕事で疲れて趣味へ手が伸びない、以前ほど本を楽しめない、スマートフォンだけ見て一日が終わる、仕事中心の生活に違和感がある。こうした感覚が一つでも強いなら、本書の優先順位はかなり上げてよいでしょう。

逆に今は問題なく読書できていて、純粋に小説や歴史、科学など別ジャンルを読みたいなら、急いで先頭へ持ってくる必要はありません。

まとめ:評判だけでなく「今読む意味」があるタイプの本

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、2024年のベストセラーとなり、新書大賞2025や書店員が選ぶノンフィクション大賞を受賞するなど、高い評価を得た一冊です。[参照:集英社新書]

ただし魅力は「賞を取ったから読むべき」というところではありません。仕事を始めてから読書や趣味を楽しむ余裕が減った人に対して、「それは個人の意志の弱さだけなのか」と問い直してくれるところが、この本の一番面白い部分です。

明治から現代までの読書と労働の歴史がかなり多く含まれるので、即効性のある読書術を求める人には優先順位は低めでも構いません。一方、読書史、労働論、自己啓発文化、現代社会について考えることが好きなら、かなり相性のよい新書です。

特に「本は買っているのに以前ほど読めない」「仕事以外の趣味へエネルギーを使えなくなった」という感覚が現在あるなら、積読の中でも比較的早めに手に取る価値があります。

読み終わったあとに残るのは「どうすれば1日30ページ読めるか」というテクニックより、自分は仕事へ人生のどれくらいを渡したいのか、そして仕事以外のためにどれくらい余白を残したいのかという問いです。その問いに興味を持てるなら、読む優先順位を上げてよい一冊でしょう。

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