『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』には、本編完結後にWebで公開された後日談『無職転生 – 蛇足編 -』があります。その中でも特に大きな反響を呼んだのが、アイシャとアルスを中心とする、いわゆる「アイシャ編」です。
アイシャ編について調べると、「最初に公開された版」「公開後に文章が修正された版」「削除後の構想」「書籍で描かれた内容」などの情報が混在しているため、どれが何を意味するのか分かりにくくなっています。さらに、Web掲載されたアイシャ編そのものは作者によって削除されているため、現在の公式公開作品だけを読んでも当時の経緯を把握しにくい状況です。
そこでこの記事では、作者・理不尽な孫の手氏が当時公開した活動報告を中心に、アイシャ編で何が起こったのか、初期状態の文章を現在正規に読むことができるのか、そして後年の作品とどのように区別すればよいのかを整理します。なお、作品の無断転載や非公式コピーを掲載しているサイトへの誘導は行いません。
そもそも『無職転生』のアイシャ編とは何だったのか
アイシャ編と呼ばれているものは、『無職転生』本編終了後に「小説家になろう」で公開されていた『無職転生 – 蛇足編 -』の一部として発表されたエピソードです。アイシャ・グレイラットとアルスを中心に、グレイラット家の人々が大きく関わる内容でした。
重要なのは、現在残っている作品だけを基準にして「最初から現在の形だった」と考えないことです。作者は公開当時、読者から寄せられた意見を受けて文章に手を入れていたことを自身の活動報告で明らかにしています。
実際、2016年2月の作者の活動報告では、アイシャ編の最終稿について質問された際、ルーデウスの台詞を大幅に削り、できるだけ淡々と話を進める方向へ変更したことが説明されています。この記録からも、公開期間中に同じ文章が固定されたままだったわけではないことが分かります。
「初回版」と「修正版」があると言われる理由
ネット上で使われる「初回版」「修正版」という呼び方には注意が必要です。一般の書籍のように、出版社が正式に「初版」「改訂版」という名称を付けて複数商品として発売した、という意味ではありません。Web小説は作者が公開後に本文を編集できるため、公開直後の文章と、その後に手直しされた文章が存在し得ます。
アイシャ編でも実際に公開後の修正が行われました。作者は2016年2月24日の活動報告で、読者の意見を読みながら反省点を検討し、細かな修正を重ねていたことを説明しています。そのため、公開直後に読んだ人と、修正後に読んだ人とでは、細部について記憶や感想が異なる可能性があります。
したがって、「初回版を読んだ」「修正版を読んだ」というネット上の証言を比較するときには、その呼称が公式な版名とは限らないことを理解しておく必要があります。「公開直後の状態」「作者が途中で修正した状態」「削除直前の状態」程度の意味で使われている場合があります。
なぜアイシャ編はWebから削除されたのか
この点については推測する必要がありません。作者本人が2016年2月24日の活動報告「アイシャ編削除について」で詳しく説明しています。作者は、読者からの意見を受けて細かな修正を続けていたものの、小規模な修正だけでは問題を十分に解決するのが難しいと判断していました。
さらに「小説家になろう」の運営から、蛇足編の一部描写が利用規約に抵触しているとの通知を受けたことも明らかにされています。これらを踏まえ、作者はアイシャ編を削除する判断をしました。経緯を確認したい場合は、作者本人による当時の説明を読むのが最も確実です。[参照:理不尽な孫の手氏「アイシャ編削除について」]
翌2016年2月25日の活動報告では、運営側が問題となった部分の削除を確認し、『蛇足編』の検索除外が解除されたことも報告されています。つまり『蛇足編』全体が消滅したのではなく、問題となったアイシャ編を削除したうえで、その他のエピソードは公開が継続されたという流れです。[参照:理不尽な孫の手氏「蛇足編の検索除外解除について」]
アイシャ編の「初回版」は現在どこかで読めるのか
ここが最も混乱しやすいところです。作者が削除したWeb版について、現在公式に公開されている「初回版」の閲覧先を確認できないのであれば、非公式な転載物を初回版として紹介するべきではありません。
検索すると、引用、感想、要約、個人保存された文章、転載と思われるページなどが見つかる可能性があります。しかし、それらが本当に公開直後の文章なのか、途中修正版なのか、第三者によって改変されていないのかを判断することは困難です。また、小説本文は著作権で保護されているため、権利者の許可なく全文を転載したページには著作権上の問題も生じ得ます。
そのため、削除済みの文章を読みたい場合でも、無断転載サイトや違法アップロードを探す方法はおすすめできません。作品の変遷を知ることが目的なら、本文そのものではなく、作者の活動報告や当時の感想記録など、現在も正規に公開されている資料から確認する方法があります。
初期版と削除直前版には実際に違いがあったのか
少なくとも「修正があった」という点については作者本人の記録から確認できます。2016年2月10日の「感想返し+反省文」では、アイシャ編の最終稿について、ルーデウスの台詞を大きく削除し、できる限り淡々と話を進めるよう変更した旨が説明されています。[参照:理不尽な孫の手氏「感想返し+反省文」]
つまり、ネット上で初期版と後期のWeb版を区別する話が出てくること自体には根拠があります。ただし、第三者が保存した文章について「これが間違いなく最初の投稿時点の全文である」と保証する公式資料がなければ、版の特定には慎重になる必要があります。
特に公開後に複数回編集されたWeb小説では、二種類だけとは限りません。「初回版→修正版」という単純な二段階ではなく、公開期間中に細かな変更が積み重なっていた可能性を考慮した方が実態に近いでしょう。
作者は削除後にアイシャ編をどうするつもりだったのか
削除は「アイシャという人物の物語そのものを完全になかったことにする」という宣言ではありませんでした。作者は削除時の活動報告で、何カ月後あるいは何年後になるか分からないものの、改めて書き直すという考えを示していました。
さらに2016年3月の活動報告では、書き直す場合には、両者の年齢、恋愛感情に至る理由、駆け落ちまでの経緯、その後の心情や後始末など、さまざまな部分が変わる可能性について説明しています。単なる文章表現の修正ではなく、物語の構成そのものを再検討する意向だったことが読み取れます。
2017年に『蛇足編』が完結した際にも、作者は削除したアイシャ編について、いずれ自分が納得できる形で書き直せればと考えている旨を改めて記しています。したがって、削除されたWeb文章と、後に商業作品などで描かれる設定・物語を完全に同一の版として扱うのは適切ではありません。
「Web初回版」「Web修正版」「書籍版」は分けて考える
アイシャ編について情報を集めるときは、少なくとも「Webで最初に公開された状態」「公開期間中に修正された状態」「後年に正式な出版物として成立した内容」を分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 考え方 | 確認時の注意 |
|---|---|---|
| Web公開初期 | 投稿直後に近い文章 | 現在、公式本文から直接比較することが難しい |
| Web修正後 | 読者の反応などを受けて作者が手を加えた文章 | 作者自身が修正した事実を活動報告で確認できる |
| 削除後 | Web版アイシャ編そのものが削除された状態 | 作者が削除理由を公式に説明している |
| 後年の商業作品 | 正式に出版された作品・関連エピソード | 削除Web版の単純な再掲載とは考えず、出版物ごとに確認する |
この区別をせずにネット上の感想を読むと、「自分が読んだ内容と話が違う」ということが起こります。感想が書かれた日付も重要な手掛かりになります。2016年2月当時の投稿ならWeb掲載版について語っている可能性が高く、後年の感想なら別媒体の内容について語っている可能性があります。
当時のアイシャ編について調べるなら作者の活動報告が重要
削除された本文を直接読まなくても、作者の活動報告を時系列で追うことで、かなり多くのことが分かります。特に2016年2月前後の記事には、読者から寄せられた疑問への回答、作者自身の反省、修正内容、削除の判断などが残されています。
作品研究という観点では、むしろこれらの一次資料には大きな価値があります。ネット上のまとめ記事では「炎上したから消した」などと一言で説明されることがありますが、作者本人の説明を読むと、読者からの反応、作品としての位置付けへの迷い、修正の難しさ、運営からの規約に関する通知など、複数の事情があったことが分かります。
特に「なぜ内容を変更したのか」「作者は何を問題だと考えていたのか」まで知りたい場合、非公式転載された旧本文だけを読むより、当時の作者コメントと合わせて考察する方が作品の成立過程を理解しやすいでしょう。
非公式転載を読むときに生じる3つの問題
第一は著作権です。削除されたからといって著作権がなくなるわけではありません。作者や権利者が公開を終了した小説を、第三者が全文コピーして再公開してよいということにはなりません。
第二は真正性です。「初版」「無修正版」などと書かれていても、本当に投稿直後の文章なのかを利用者側で検証できないことがあります。一部分が欠落していたり、別の時点の修正版だったり、第三者が文章を変更していたりする可能性も否定できません。
第三は現在の作品との混同です。旧Web版をそのまま現在の公式設定として扱うと、後に作者が再構成した内容との違いを見落とします。作品の変遷を研究する資料として旧版の存在を知ることと、現在の正規作品として読むことは分けて考える必要があります。
まとめ:アイシャ編の初回版を探すなら「削除された公式版」であることを理解しておこう
『無職転生』のアイシャ編は、Web公開後に作者によって修正が加えられ、その後、作者自身の判断によって削除されたエピソードです。作者の活動報告からは、修正が実際に行われたこと、運営から規約に関する通知があったこと、細かな修正では解決が難しいと考えて削除を選択したことなどを確認できます。
したがって、ネット上で語られる「初回版」と「修正版」に違いがあるという話には背景があります。しかし、現在公式に公開されていない初期文章について、第三者による無断転載ページを正規の閲覧先として紹介することはできません。また、その転載物が本当に投稿直後の版なのかを保証できないという問題もあります。
アイシャ編がなぜこれほど読者の記憶に残り、作者自身も長期間にわたって言及するエピソードになったのかを知りたい場合は、削除された文章だけを探すのではなく、2016年当時の作者の活動報告、修正についての説明、削除理由、そして後年に成立した公式作品を時系列で比較するのがおすすめです。そうすることで、単なる「幻の初回版探し」ではなく、一つの物語が読者の反応と作者の再考を経てどのように変化していったのかまで理解できるでしょう。


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