青山美智子『赤と青とエスキース』の中でも、一章「金魚とカワセミ」は特に恋愛小説らしさの強いエピソードです。メルボルンへ留学している女子大生・レイと、現地で暮らす日系人のブー。日本へ帰る日が決まっているレイとブーは、終わりが最初から見えている関係を始めます。
この物語が好きなら、単純に「泣ける恋愛小説」を選ぶより、限られた時間の恋、離れていても残る想い、人生の選択によって変化する関係、静かで温かな文章といった要素から次の一冊を探すのがおすすめです。
ここでは「金魚とカワセミ」のどこに惹かれたかを整理しながら、似た読後感を楽しみやすい恋愛小説を紹介します。作品の核心に触れる大きなネタバレは避けています。
『赤と青とエスキース』一章「金魚とカワセミ」はどんな恋愛物語?
『赤と青とエスキース』は青山美智子による連作短編集で、2021年11月にPHP研究所から刊行され、2022年本屋大賞では第2位となりました。一枚の絵画「エスキース」を軸として、時間と場所を越えた複数の「愛」が描かれます。[参照:PHP研究所『赤と青とエスキース』]
一章「金魚とカワセミ」の舞台はオーストラリアのメルボルン。交換留学生のレイは現地に住む日系人のブーと出会い、恋に落ちます。しかしレイには留学期間が終われば日本へ帰るという予定があります。そこで二人は、いわば終わる時期があらかじめ決められた恋を始めます。
この設定の魅力は、派手な事件によって二人が引き裂かれるわけではないところです。「好きだけれど、この生活は永遠には続かない」という現実が最初から二人の間にあります。そのため楽しい場面にも少しだけ寂しさが混じり、普通の恋愛とは違った余韻を生み出しています。
似た小説を探すときに注目したい4つの要素
「金魚とカワセミ」に近い作品を探す場合、ストーリーがそっくりな小説を探す必要はありません。むしろ読後に残った感情を基準にすると、自分に合う作品を見つけやすくなります。
| 好きだった要素 | 次の本を探すキーワード |
|---|---|
| 期限のある二人の関係 | 別れ、遠距離、人生の選択 |
| 穏やかな恋愛 | 日常系、静かな恋愛小説 |
| 少し切ない読後感 | 青春、喪失、再会 |
| 恋愛だけではない人生の物語 | 成長、仕事、家族、人生 |
特に重要なのは、「障害を乗り越えて結ばれる恋愛」だけを求めているわけではないという点です。「金魚とカワセミ」には、相手を好きになる気持ちと、自分自身の人生を進まなければならない現実が同時に存在しています。
このような恋愛と人生の選択が同じくらい大切に描かれる作品を選ぶと、近い読み味を感じやすいでしょう。
おすすめ1:青山美智子『木曜日にはココアを』
最初に候補にしたいのが、同じ青山美智子の『木曜日にはココアを』です。『赤と青とエスキース』の構成や、青山作品特有の人と人とのつながりが好きだった人には入りやすい一冊です。
東京の小さな喫茶店から始まり、一見すると別々に見える人々の人生が少しずつつながっていきます。恋愛だけを中心にした作品ではありませんが、人を好きになることや誰かを思いやることを、柔らかな筆致で描いています。
「金魚とカワセミ」の海外を舞台にした雰囲気や、強すぎない感情表現、読み終えたあとに温かさが残るところが好きだった場合は特に相性のよい選択です。
おすすめ2:凪良ゆう『汝、星のごとく』
恋愛と人生の選択という部分をさらに深く読みたいなら、凪良ゆう『汝、星のごとく』が候補になります。瀬戸内の島で出会う暁海と櫂を中心に、恋愛だけでは解決できない家族や仕事、人生の問題が描かれます。
「好きならずっと一緒にいればいい」という単純な話にならないところが大きな特徴です。人にはそれぞれ自分の人生があり、愛する人がいても選択しなければならないことがあります。
その意味では、「金魚とカワセミ」にある好きという気持ちだけでは時間や人生そのものを止められない切なさを、より重厚な長編で味わいたい人に向いています。
おすすめ3:有川ひろ『阪急電車』
もう少し軽やかで読みやすい恋愛作品を求めるなら、有川ひろ『阪急電車』もおすすめです。阪急今津線の電車内を舞台に、乗客たちのさまざまな人生が描かれる連作小説です。
登場人物は学生から大人まで幅広く、恋の始まりだけでなく失恋や新しい一歩も描かれます。一つ一つの出来事は日常の延長線上にあり、大げさな設定を使わず人間関係を描いている点が魅力です。
「金魚とカワセミ」のような、日常の会話やちょっとした出来事から二人の距離が変化していく恋愛が好きなら楽しみやすいでしょう。
おすすめ4:辻村深月『傲慢と善良』
恋愛関係における「相手を見ること」と「自分を見ること」を掘り下げたい人には、辻村深月『傲慢と善良』があります。
婚約者が突然姿を消したことをきっかけに物語が動きますが、単純な恋愛ミステリーではありません。恋人選び、結婚、自尊心、他人からの評価など、現代の恋愛に潜んでいる心理が細かく描かれています。
青山美智子作品より心理的に重い部分はありますが、「好きになるとはどういうことなのか」「自分は相手に何を求めているのか」と考えさせられる恋愛小説を読みたい人に向いています。
おすすめ5:越谷オサム『陽だまりの彼女』
恋愛そのものの幸福感と切なさを強く味わいたい場合には、越谷オサム『陽だまりの彼女』も候補になります。かつて同級生だった男女が大人になって再会するところから始まる恋愛小説です。
前半には二人で過ごす時間の幸福感があり、その一方で物語が進むにつれて「この時間がいつまでも続くのだろうか」という感覚が生まれてきます。
「金魚とカワセミ」で、レイとブーが一緒にいる時間そのものの愛おしさに惹かれた人なら、こちらも印象に残りやすいでしょう。ただし物語にはファンタジー的な要素があります。
おすすめ6:住野よる『君の膵臓をたべたい』
「終わりがあることを知りながら誰かと時間を過ごす」という要素をもっと強くした作品が、住野よる『君の膵臓をたべたい』です。
病気によって残された時間が限られている少女と、彼女の秘密を偶然知った少年との交流を描きます。「金魚とカワセミ」と設定自体は異なりますが、時間が無限ではないからこそ、一緒に過ごす一日一日の意味が変わって見えるという点には共通する読み味があります。
一方で、こちらは青春や生死というテーマが前面に出ます。「金魚とカワセミ」の静かな切なさをさらに強い感情で味わいたい人向けです。
おすすめ7:青山美智子『月の立つ林で』
恋愛だけに限定せず、『赤と青とエスキース』そのものの読後感が好きだったなら、青山美智子『月の立つ林で』も候補に入ります。
一見すると別々の人生を送っている人たちが、ある音声番組を通して緩やかにつながっていく連作短編集です。青山美智子らしい「本人が知らないところでも、人と人との人生はつながっている」という感覚を味わえます。
恋愛成分だけなら他の候補のほうが強いものの、『赤と青とエスキース』を読み終えたときの伏線がつながる気持ちよさと優しい余韻をもう一度楽しみたい場合にはおすすめです。
「金魚とカワセミ」のどこが好きだったかで選ぶなら
ここまでの作品は、それぞれ似ているポイントが異なります。次に読む一冊を決められない場合は、次のように選ぶと分かりやすくなります。
| 求めている読み味 | おすすめ |
|---|---|
| 青山美智子らしい優しさ | 『木曜日にはココアを』 |
| 恋愛と人生の選択 | 『汝、星のごとく』 |
| 軽やかで温かな恋愛 | 『阪急電車』 |
| 恋愛心理を深く読みたい | 『傲慢と善良』 |
| 幸せと切なさを味わいたい | 『陽だまりの彼女』 |
| 期限のある時間というテーマ | 『君の膵臓をたべたい』 |
| 連作短編のつながりが好き | 『月の立つ林で』 |
特に「金魚とカワセミ」のレイとブーの関係性そのものが好きなら、『汝、星のごとく』のように、恋愛と自分自身の人生が必ずしも同じ方向へ進まない作品が候補になります。
反対に、切なさよりも青山美智子作品の柔らかな雰囲気が好きだったのであれば、まずは『木曜日にはココアを』や『月の立つ林で』から読むほうが好みに合う可能性があります。
『赤と青とエスキース』自体も一章だけで終わらせるのはもったいない
一章「金魚とカワセミ」が特に好きだった場合でも、『赤と青とエスキース』は最後まで読むことで一章の印象が変わるように構成されています。
出版社によれば、本作はメルボルンの若手画家が描いた一枚のエスキースが日本へ渡り、30数年にわたって「ふたり」の間をつないでいく連作短編です。[参照:PHP研究所]
そのため一章を独立した恋愛短編として気に入った人も、全体を読み終えてから改めて「金魚とカワセミ」を読み返すと、最初とは違ったところに目が向くはずです。仕掛けについて事前に調べすぎず、そのまま読み進めることをおすすめします。
まとめ:優しく切ない恋が好きなら「恋愛と人生」を描く小説から探そう
『赤と青とエスキース』一章「金魚とカワセミ」の魅力は、単純な甘い恋愛だけではありません。メルボルンという日常から少し離れた場所、期限が決められた関係、いつか別々の人生へ戻らなければならない二人、そして限られているからこそ愛おしく感じられる時間が重なっています。
似た雰囲気を最優先するなら『木曜日にはココアを』、恋愛と人生の選択をもっと深く読みたいなら『汝、星のごとく』、日常の中にある優しい恋なら『阪急電車』、期限のある時間という切なさを強く味わいたいなら『君の膵臓をたべたい』が選びやすいでしょう。
そして「金魚とカワセミ」が好きだった理由を、「レイとブーの関係」「期間限定という設定」「文章の優しさ」「海外の空気感」「切ないけれど温かい読後感」のように分解してみると、次に読みたい恋愛小説をさらに見つけやすくなります。


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