写真家・濱本奏による写真集『ー・・(チョー タン タン)』は、一般的な風景写真集や人物写真集とは少し異なり、写真だけでなく歴史的な記録や日記、音まで組み合わせて作品世界を構成した一冊です。購入を検討するときは、単純に「きれいな写真が多いか」ではなく、作品の背景や写真以外の要素も含めて鑑賞したいかが重要な判断基準になります。
販売情報によると、本書には横須賀で撮影された写真に加え、1945年の伏龍特攻隊に関する記録、2024年の制作期間に書かれた日記などが収録されています。さらにフィールドレコーディングを素材とした音源を収録する7インチレコードも付属する仕様となっており、写真集でありながら複数の表現方法を横断する作品になっています。
濱本奏『ー・・(チョー タン タン)』とはどんな写真集?
『ー・・』は、濱本奏自身が立ち上げた出版レーベル「真珠出版」から刊行された写真集です。販売ページでは『ー・・(チョー タン タン)』と表記されています。ISBNは9784991430701です。
本書のもとになったのは、2024年に神奈川県横須賀市で開催された芸術祭「SENSE ISLAND/LAND 感覚の島と感覚の地 2024」において発表された作品です。その作品をそのまま記録しただけではなく、書籍という媒体に合わせて再構成している点が特徴です。
つまり展覧会の図録というより、展示を起点として写真・資料・文章・音を一つの作品として編集したアートブックに近い感覚で捉えると、本書の性格が分かりやすくなります。
写真だけではなく横須賀と戦争の記憶が重要なテーマ
本書を理解するうえで外せないのが横須賀という場所です。収録内容には横須賀で撮影された写真だけでなく、1945年の伏龍特攻隊に関係する記録も含まれています。
そのため、単に横須賀の現在の風景を鑑賞する写真集ではありません。現在の土地を撮影しながら、そこに残された過去や歴史をどのように捉えるのかという視点が作品を読む重要な手掛かりになります。
戦争をテーマにした本というと、歴史的事実を文章や資料で詳しく説明するノンフィクションを想像するかもしれません。しかし写真作品の場合には、作者が何を写し、何を並べ、どのような余白を残しているのかも表現になります。歴史について情報を得るための本というより、写真を通して記憶や場所について考える作品として見るほうが適しています。
制作中の日記が収録されている点も特徴
『ー・・』には、濱本奏が2024年の制作期間中に綴った日記も収録されています。完成した写真だけを見る場合と異なり、制作時の時間や作者の視点に触れながら作品を見ることができます。
写真集では写真の説明を文章で細かく書かない作品も多く、鑑賞者自身による解釈が求められます。一方で日記や資料が組み込まれた作品では、写真と文章を行き来することで、最初に写真だけを見たときとは違った印象が生まれることがあります。
例えば最初は何気ない風景に見えた一枚でも、場所の歴史や制作背景を知ってからもう一度見ると、その風景に別の意味を感じる場合があります。このような読み返すことで印象が変化する写真集が好きな人には相性のよい構成といえるでしょう。
7インチレコード付きという珍しい構成
本書の特徴として見逃せないのが、7インチレコードが付属することです。販売情報によれば、濱本奏がフィールドレコーディングで集めた音をミックスした音源が収録され、マスタリングは君島大空が担当しています。
通常の写真集では視覚だけで作品を鑑賞しますが、本書の場合には写真を見ること、文章を読むこと、音を聴くことが作品体験として結び付けられています。この点は一般的な写真集とはかなり異なります。
レコードプレーヤーを所有している人なら実際に音源を再生しながら本を見る楽しみ方もできます。一方、レコードを再生する環境がない場合は、付録の魅力を十分に体験できない可能性があるため、購入前に考えておきたいポイントです。
濱本奏の過去作品が好きな人にも注目したい一冊
濱本奏は『ー・・』以前にも写真集を刊行しています。代表的な一冊に初写真集『midday ghost』があり、2021年5月発売の商品情報では288ページ、ISBN9784990825027として流通しています。
『midday ghost』では、日常の風景でありながら非現実的で白昼夢のようにも感じられる写真群が構成され、ポートレートやランドスケープなどを通して記憶や心情を想起させる作品が紹介されています。壊れたカメラを使用した撮影やミクストメディアなど、一般的な写真表現だけに限定されない制作姿勢も以前から見られます。
そのため『midday ghost』などで濱本奏の写真表現に魅力を感じた人が、より複合的な作品を見てみたい場合にも『ー・・』は興味深い選択肢になります。
『ー・・』をおすすめしやすい人
本書は万人向けの娯楽写真集というより、現代写真やアート作品をじっくり鑑賞したい人に向いています。特に次のような興味がある場合は検討する価値があります。
- 濱本奏の写真作品が好き
- 現代写真やアート写真集を集めている
- 写真から自分なりに意味を読み取る作品が好き
- 横須賀という土地やその歴史に関心がある
- 戦争の記憶を現代の表現から考えてみたい
- 写真と文章を組み合わせた作品が好き
- フィールドレコーディングや音響表現にも興味がある
- 一般的な商業写真集とは異なるアートブックを探している
特に「写真を見るだけで完結する本」ではなく、「写真を起点として考える時間そのものを楽しみたい」という人とは相性がよいでしょう。
反対に購入前に確認しておきたいポイント
一方、写真集に求めるものによっては必ずしも最適とは限りません。例えば観光地としての横須賀の美しい風景写真をたくさん見たい人や、戦史について体系的な解説を読みたい人の場合、期待している内容とは方向性が異なる可能性があります。
また、作品の意味が一目で理解できるタイプの写真集を好む人より、写真、資料、日記などの関係を自分で考えながら鑑賞することを楽しめる人のほうが向いています。
写真集は小説など以上に「好み」が評価を左右するジャンルです。そのためおすすめ度を星の数だけで判断するより、自分が写真集に何を求めているのかと作品の方向性を照らし合わせるほうが失敗しにくくなります。
価格だけではなく本そのものの仕様で判断したい
『ー・・』は一般的な文庫本や写真中心の廉価な書籍とは異なり、レコードまで含めた作品として制作されています。そのため「ページ数に対して高い・安い」という通常の書籍と同じ基準だけでは評価しにくい作品です。
販売情報では初版2刷の500部限定・7インチレコード付き仕様が6,600円で販売されていた例があり、その後の第3刷・サイン本では7,000円という販売例も確認できます。価格や在庫、仕様は販売時期によって変化する可能性があるため、購入時点の販売店情報を確認する必要があります。
写真集の場合、印刷、装丁、用紙、発行部数、付属物なども価格を構成する重要な要素です。本書についても「写真を見るための本」だけではなく、写真・資料・日記・レコードを組み合わせた一つの作品として価格を判断するとよいでしょう。
まとめ:『ー・・』は写真・歴史・文章・音を横断して鑑賞したい人におすすめ
濱本奏の『ー・・(チョー タン タン)』は、横須賀で撮影された写真、1945年の伏龍特攻隊に関する記録、制作期間の日記、そしてフィールドレコーディングによる音源を組み合わせた写真集です。
そのため、分かりやすい被写体を楽しむ一般的な写真集というより、現在の風景と過去の記憶との関係を、写真・文章・音から考える現代写真作品を求める人におすすめしやすい一冊です。特に濱本奏の作品が好きな人、現代写真やアートブックを収集している人、横須賀や戦争の記憶を扱った表現に関心がある人には注目する価値があります。
反対に、分かりやすいストーリーや観光写真、歴史についての詳細な解説を第一に求める場合は、購入前に作品内容を確認したほうがよいでしょう。写真集は鑑賞者との相性が大きい媒体だからこそ、「有名だから買う」のではなく、作品のテーマと表現方法に惹かれるかどうかを基準に選ぶのがおすすめです。


コメント