塩田武士さんの「存在のすべてを」を読んだ多くの読者が感じた疑問の一つは、内藤亮が高校3年の卒業前に何をしていたのかということです。特に、バレンタインデーやホワイトデーの里穂の回想シーンや、卒業式当日の回想に登場する亮の行動に疑問を持つ方が多いようです。また、亮の祖父母が卒業式に姿を見せなかった理由についても、物語の中で直接的に説明されていないため、読者の間でさまざまな解釈がなされています。今回は、この謎を解明するための考察を行います。
内藤亮の卒業前の行動
内藤亮が高校3年の2月から3月にかけて何をしていたのかについて、物語の中では「出掛けなきゃいけなくて」や「いろいろ話したいんだけど、用事があって」といった曖昧な表現が使われています。これが示唆するのは、亮が何か重要な理由で里穂との時間を十分に取れなかったということです。亮が「出掛けなければならない」と言うのは、何か大きな出来事が彼を動かしていた可能性が高いです。
また、これらのセリフからは、亮が里穂との関係を大切にしながらも、自分の事情によりその関係を深めることができなかったという切なさが伝わってきます。この時期に亮がどのような決断をしていたのかは、物語の進行とともに徐々に明らかになる重要な要素です。
亮の祖父母と卒業式の謎
卒業式の日に「木島家には住人の気配がまるで感じられなかった」という描写があり、読者は亮の祖父母がどこに行ったのか、なぜ卒業式に出席しなかったのかという疑問を抱くことになります。物語では、2008年に木島茂の会社が倒産し、その後2009年に茂が死亡したことが記されていますが、この経済的な困難が亮の家族の行動にどのように影響を与えたのかが重要なポイントです。
亮の祖父母が卒業式に姿を見せなかった理由については、倒産後の経済的な圧迫や、それに伴う家族内の問題が影響していた可能性があります。倒産から2年後に茂が亡くなったことを踏まえると、木島家が「夜逃げ」する形で家を離れた可能性も考えられます。しかし、この推測はあくまで読者の想像に委ねられており、物語内では直接的な説明がなされていません。
亮の卒業式とその後の動き
亮が卒業式に出席せず、その後北海道のアトリエに引っ越したという解釈もあります。これは、亮が家族の問題に関わらず自分自身の道を歩んでいく決断をした結果とも考えられます。彼が卒業式に参加せず、家族とともに過ごさなかったことは、彼の内面の成長や自立を象徴している可能性が高いです。
また、亮が物語の中で再会する「六花」の朔之介との関係が深まっていく中で、亮がどのように成長していったのかが描かれています。彼が卒業式を経て、どのように人生を歩んでいくのかは、物語の後半において重要なテーマとなります。
物語の未解決の要素と読み手の解釈
塩田武士さんの「存在のすべてを」では、多くの未解決の要素が残されています。特に、亮の家族に関する詳細や彼の行動の背景については、読者が自分なりに解釈する余地が多く残されています。物語の中で直接的に答えが示されていない部分があるため、読み手の想像に任される部分が多いのです。
このような未解決の要素は、物語を深く考察する楽しさを与えており、読者が自分なりの答えを見つけることができるのも、この小説の魅力の一つです。
まとめ
「存在のすべてを」の中で、内藤亮の卒業式における行動や家族の動きについては、多くの疑問を呼び起こします。亮が卒業式に出席しなかった理由や、祖父母の行動については明確に語られていませんが、物語の中での彼の成長と自己発見のプロセスが、これらの未解決の要素に深い意味を与えています。読者はこれらの要素をどのように解釈するかによって、物語の印象が大きく変わることでしょう。
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