原田マハの小説『楽園のカンヴァス』において、コンラート・バイラーの心情の変化と孫娘との確執が描かれています。この変化がどのように物語に影響を与え、なぜ彼がルソーの絵を広めたいという思いから逆に隠したいと思うようになったのか、その背景について掘り下げていきます。
コンラート・バイラーの初期の思いとルソーとの関係
物語の中でコンラート・バイラーは、若い頃からルソーの絵画を高く評価していました。彼は「自分にお金があったら、ルソーの絵をもっと広めたい」「ルソーの価値を分からせる画廊を作りたい」と語り、その情熱を持ち続けていました。この思いは、彼の人生を通じてルソーの作品を評価し、普及させることに尽力する原動力となります。
彼の芸術に対する情熱は、若い頃の純粋な理想主義や、芸術が持つ可能性への強い信念から来ているものです。ルソーの作品が広く認知されることを願い、そのために力を尽くすことが彼の使命であると感じていたのです。
晩年の変化と隠すことへの心情
しかし、物語が進むにつれて、コンラートの心情に変化が訪れます。彼は晩年にルソーの作品を収集し、その価値を十分に理解しながらも、最終的には「誰の目にも触れさせたくない」と孫娘に告げるようになります。この変化の原因は、彼の価値観や人生観が変わってしまったことにあります。
晩年のコンラートは、ルソーの絵画に対する評価を再考し、アートの商業化や価値の交換がもたらす弊害を強く感じ始めました。彼は、ルソーの作品が一部の特権的な存在によって消費されていく現実に失望し、絵を隠すことが最も尊敬する方法だと考えるようになったのです。
孫娘との確執の原因
コンラートとその孫娘との確執は、彼の変化した心情によって生じました。孫娘は、祖父がルソーの作品を広めたかったという理想を知っており、祖父の作品への情熱を受け継ぎたいと考えていました。しかし、コンラートが「誰にも見せたくない」と言い出すことで、孫娘は彼の意図を理解できず、また彼女の理想との不一致が強調されていきます。
孫娘は、アートの価値を認め、世に広めるべきだという気持ちを持っていたため、祖父の行動に深く困惑し、次第に確執が生じることとなります。コンラートの心情の変化が、彼女との関係に深刻な影響を与えることになるのです。
物語を通じたテーマの考察
『楽園のカンヴァス』は、アートと商業、世代間のギャップ、理想と現実の対立をテーマにしています。コンラート・バイラーの心情の変化は、芸術が持つ力と、それが時間とともにどのように変質していくかを象徴しています。また、世代間で価値観が異なることが引き起こす対立も、この物語の重要なテーマとなっています。
物語の中で描かれる確執は、単にアートに関するものであるだけでなく、より広い意味での人間関係の変化を示唆しています。コンラートの心情の変化を通して、アートと人間関係、そして時の流れに伴う価値観の変遷が描かれているのです。
まとめ
『楽園のカンヴァス』におけるコンラート・バイラーの心情の変化は、彼の人生や芸術観、さらには孫娘との関係に深い影響を与えました。彼のルソーに対する初期の情熱から、晩年の隠すべきだという考え方への変化が、物語の中でどのように描かれ、物語全体にどう影響を与えたのかを考察しました。『楽園のカンヴァス』は、アートと人間関係における深いテーマを掘り下げた作品です。
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