小説『殺戮にいたる病』を読んでいると、世間で報道されている殺人犯による殺害件数と、主人公・稔視点で描かれる被害者数に不一致があることに気づくかもしれません。この違いは物語の中でどのように説明されているのか、そしてその背後にある意図について解説します。
稔視点と世間の報道の違い
『殺戮にいたる病』では、主人公である稔が語り手となって物語が進行します。しかし、稔視点で描かれる殺人事件の被害者数と、外部で報道される殺人犯の件数にズレが生じていることが読者に疑問を抱かせます。この違いは意図的なものです。物語の進行上、稔の視点が持つ偏りや感覚が影響しており、全体の事件の真相を完全に明らかにしないことが重要な役割を果たしています。
物語の中での視点の限界
『殺戮にいたる病』は一人称視点で進行しているため、読者が得られる情報は稔自身の認識に基づいています。稔が自分の行動や記憶にどのように向き合っているかによって、物語の進行にズレが生じることがあります。視点が一つであることから、読者にとってはその認識がすべての事実であるかのように感じられますが、実際には全容が明らかにされていないという点が、物語の謎を深める重要な要素です。
作者の意図と物語の構成
この不一致は、単にミスではなく、作者が物語の構成において意図的に採用した手法です。稔の視点で描かれる情報は不完全であり、読者が全ての事実を知ることができないように仕向けられています。これにより、読者は物語の進行に合わせて不確かな情報を受け取ることになり、最終的にその真相に迫る過程が物語の魅力を増すことになります。
結論と物語の魅力
『殺戮にいたる病』における殺害件数の違いは、物語が一人称視点で描かれていることによる視点の偏りと、意図的に情報を隠すことで謎を深める構成の一環です。読者は物語を進める中で少しずつ真実に近づき、その過程が読書体験をより魅力的にしています。このような不一致を疑問に思うこと自体が、作品の深さと魅力を感じさせる要素となっているのです。
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